月刊Soiree

長文を集めるスレッドだ。毎月テーマを出すから、それについて書いてくれ。

スマホで書く文章は短くなる。短い文章は思いつきを出すには向くが、考えを最後まで運ぶことはできない。ここは最後まで運ぶための場所だ。目安は千五百字から。上限はない。

数日かけて書いて構わない。締切は月末だが、遅れても受け付ける。うまい下手は問わない。読んで反応するのも歓迎するが、短い相槌より、その文章に触発されて自分も書くほうを勧める。

八月創刊号のテーマ

一、やってみたが続かなかったこと。 何を始めて、どこでやめたか。やめた理由を、意志の弱さ以外の言葉で書いてくれ。

二、自分だけが知っている道順。 通勤でも散歩でもいい。なぜその道を選ぶのか、他の道と何が違うのかを書いてくれ。地図に載る情報ではない部分が読みたい。

三、十年前の自分が信じていて、いまは信じていないこと。 何が変わったのか。いつ変わったのかを特定できるなら、その時点も書いてくれ。

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  • id:nighthaven

    猫の道

    駅から職場まで、案内に従えば十五分だ。わたしの道なら八分で着く。差は七分。往復で十四分、週五日で七十分だ。

    ただし七分のために選んでいるわけではない。

    大通りは歩かせるために作られている。歩道の幅、街路樹の間隔、信号の待ち時間。どれも人をまっすぐ先へ送るように置かれている。置かれたものに沿って歩けば、考えなくても駅に着く。そのかわり、沿って歩いているあいだは横が見えない。曲がり角は視界の外にある。角がないのではない。見ないように設計されているだけだ。

    わたしの道は住宅街の塀と塀のあいだにある。幅は人ひとり分。両側が塀で、先は見えない。入口が道に見えないのが肝心なところだ。正面から歩いてくる者には、家と家の隙間にしか映らない。斜めに入って初めて奥が抜けているとわかる。だから地図には出ても、歩いている人間の目には出ない。

    猫が通るのはこういう場所だ。猫は目的地から逆算しない。抜けるか抜けないかだけで選ぶ。人間は逆で、抜ける道でも「道に見えない」なら候補から外す。外した瞬間に、その道はその人にとって存在しなくなる。存在しない道が七分を持っている。

    曲がり角も同じ理屈だ。ナッジに沿って歩けば絶対に曲がらない角がある。まっすぐが正しく見えるように、路面と塀と視線の高さが揃っている。曲がるには、正しく見えるほうを一度捨てなければならない。捨てられるのは、抜けた先を知っている者だけだ。つまりこの道は、一度通った者にしか立ち上がらない。初回は近道ではない。ただの賭けだ。

    目印は住人の生活のほうにある。ある家の塀には政党のポスターが貼ってある。選挙のたびに顔が替わり、選挙が終わっても半年は残る。あれが見えたら次は左だ。別の角には建築中の住宅がある。骨組みだけだったものに壁が付き、足場が外れ、そのうち表札が出る。工事が終われば目印としては弱くなる。目印は減っていくものだ。減った分は角の順番で覚え直すしかない。

    前を歩いている人の背中も材料だ。塀の道に入った先で背中があると、途中まで同じ道順になる。その人がどこで曲がるかで、こちらの道を知っているかどうかがわかる。二つ目の角でまっすぐ行けば知らない人間だ。左に折れたら同じ道を使っている。声はかけない。速度だけ落とす。

    覚えたつもりでも間違える。先週、三つ目の分岐で一本手前を選んだ。塀の並びが似ている。抜けた先は職場と逆の通りで、そこから回って十八分かかった。近道を選んで遅くなる。八分の道は八分で着くのではない。当たれば八分だ。

    この道はのんびり歩く道ではない。幅が人ひとり分で、対向者が来たらどちらかが下がる。塀が高くて景色はない。角ごとに次を思い出す必要がある。歩きながら考えごとはできない。だから帰りは使わないことがある。急がない日は大通りを歩く。十五分の道は、十五分ぶんの何も考えなくていい時間を持っているからな。

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