番外編 同じ広場なので、もちろん乱闘も起きる
はてな沖縄知事選・戦闘スタイル図鑑
ここまで、
読む記事はかなり重なる。
コメントする場所も重なる。
でも、スターを付ける相手になると二つの大きな圏に分かれる。
という話をしてきた。
すると当然、一つ疑問が出てくる。
そんなに同じ場所にいるなら、喧嘩にならないのか。
なる。
普通になる。
というより、同じ場所にいるからなる。
政治的に気の合わない相手が、どこか遠いブログにいるならまだ平和である。
見なければいい。
しかし、はてなブックマークではそうはいかない。
同じ記事を開く。
同じコメント欄を見る。
すると、自分とは正反対のことを書いている人がすぐそこにいる。
しかもスターまで付いている。
政治的に気の合わない人間を同じ酒場へ入れ、発言の横に拍手人数までリアルタイム表示する。
考えてみれば、かなり攻めた設計である。
そして、だいたい良くないことが起きる。
わざわざ相手の名前を呼んで殴る
今回の132記事では、id:ユーザー名 の形で他のブックマーカーを直接名指ししたコメントが15件確認できた。
その多くは、
「おい、ちょっとこっち来い」
に近い。
たとえば poko_pen は esbee に対して、
「有事の際の避難計画などを国と自治体が協力してやってるけど、沖縄本島だけ知事が反対してて進んでないの知らないの?もしかして基地が無ければ戦争巻き込まれないと思ってる?」
と直接反論している。
red_kawa5373 は cinefuk に、
「日本のリベラルさん、大声で怒鳴り散らす行為を『周りの人が萎縮する』と認めちゃったよ。」
と当てこする。
tamase は zu2 に、
「具体的にどう違うか言えるの?言えないでしょ。ダブスタ突っ込まれた人の常套句だよね『程度が違う』って」
と詰める。
CffnAddict は tfurukaw に、
「顔を出して主張する活動と、匿名でデマを撒く行為の区別がつかないのは、少し気の毒に思う。」
と返す。
最後の例は特に味わい深い。
「理解できていない」と言うのではない。
気の毒に思ってあげる。
同情の形を取ると、なぜか攻撃力が上がる。
ただし、決闘にはならない
面白いことに、今回確認した直接IDコールでは、
AがBを名指しし、BもAを名指しして殴り返す
という往復戦は確認できなかった。
つまり、
A「お前それ違うだろ」
B「なんだと」
というボクシングより、
Aが石を投げる。
観客がスターを付ける。
そのまま解散。
という形式が多い。
決闘というより投石である。
15件しかない? そんなに平和なわけがない
ただし、
「名指しが15件なら意外と平和じゃないか」
と安心するのは早い。
これは相手のIDまで丁寧に書いた場合だけだからだ。
はてなの乱闘では、わざわざ相手の名札を確認してから殴る必要はない。
もっと便利な方法がある。
集団名で殴る。
今回の132記事でも、
| 表現 |
確認できたコメント |
| 「ブコメ」への直接言及 |
20件 |
| 「ネトウヨ」 |
21件 |
| 「ハテウヨ」 |
3件 |
| 「左翼」 |
61件 |
| 「お前ら」 |
14件 |
といった言葉が出ている。
もちろん、「左翼」と書いた61件すべてが目の前のブックマーカーを攻撃したものではない。
政党や政治運動について論じているものも含まれる。
それでも、
一人ずつ相手の名前を確認するのは面倒なので、陣営名を付けて範囲攻撃する
という戦術はかなり普通に使われている。
便利である。
精度は低い。
「人気コメ」という便利な標的
特定の相手を名指しする必要すらない。
はてなには人気コメントという便利な標的がある。
qouroquis は、
「人気コメは政治的な皮肉としては理解できますが、法的な議論としてはかなり雑です。」
と静かに刺す。
akitonkun は、
「トップコメは論点をすり替えてます。」
と一刀両断。
mangabon は、
「トップ付近コメのいつメンに草」
で済ませる。
内容への反論を超えて、
「ああ、またお前らか」
という処理である。
そして sirotar は、
「人気コメの皆さんは名誉毀損を恐れない蛮勇ですね。」
と書く。
「無責任だ」と怒鳴るのではない。
勇敢ですね、と褒める。
非常に礼儀正しい。
引用して、一言だけ添える
もっと省エネな方法もある。
d346prt は、別のブックマーカーの
「これは時間軸を未来にしただけの確定した事実だ」
という表現を拾い、
「格好いいねぇ。」
とだけ書いた。
褒めている。
形式上は。
相手の発言を額縁に入れて壁へ掛け、
「皆さん、これをご覧ください」
とやるだけで攻撃が成立する。
はてなでは説明を省いても、だいたい伝わる。
本人だけでは足りない。スターを付けた奴も焼く
さらに、はてな特有の戦術がある。
相手だけでなく、その相手にスターを付けた人まで殴る。
colonoe は、
「id:tekitou-mangaとスターつけてる連中、反論の内容見てないだろ」
と書く。
本人だけではない。
応援席まで対象になる。
ZurLurUdon も、
「星つけてる奴らの程度もしれてる。」
と観客席へ砲撃する。
harsh88 は、
「トップのコメント及び星つけてる人ら、この記事の(1)に書いてる事読んでないのだな。」
とまとめて指摘する。
スターは本来、
「このコメントに反応しました」
を可視化する機能である。
ところが政治論争では同時に、
「敵の応援席一覧」
にもなる。
選手を殴っていたはずなのに、気が付けば観客席まで燃えている。
ブコメ欄そのものを犯行現場として提出する
さらに一段進む。
もう個人すらどうでもいい。
コメント欄そのものを敵の証拠として使う。
white_rose は、
「ブコメ見て。ほらね、ネトウヨは何でも難癖をつけるでしょ?」
と書く。
記事本文ではなく、
ブコメが証拠である。
theNULLPO は、
「ブコメ見てるとこれに加担してそうな奴が何人もおるな」
byaa0001 は、
「ブコメもまた工作多いな」
zyzy に至っては、
「完全にカルト宗教の思考回路になってるブコメが散見されてて凄いな。」
と評する。
記事についてコメントするためのコメント欄で、
コメント欄についてコメントする。
そして、そのコメントについてまた別の人がコメントする。
ホッテントリが自己参照を始める瞬間である。
「はてな民」という巨大生命体が誕生する
個人を一人ずつ殴るのが面倒なら、さらに広げればいい。
yujimi-daifuku-2222 は、
「はてな民には反省して欲しいなあ。」
mventura は、
「はてな民は『合法だから良い』ようだが」
colonoe は、
「爆発物を投げ込むのを擁護してたはてな民が何人かいたよね」
と書いている。
1,114人いた人間は、ここで、
「はてな民」という一匹の巨大生物
へ統合される。
個体差は消滅する。
参加しなくても殴られる
さらに恐ろしい戦術もある。
teisi は、
「ブクマ全然伸びてなくて笑う。はてサには都合の悪い記事らしい。」
と書く。
これはかなり強い。
記事に集まれば、
「また湧いてる」
と言われる。
記事に来なければ、
「都合が悪いから来ない」
と言われる。
参加しても攻撃される。
参加しなくても攻撃される。
隙がない。
まだ書かれていない反論まで先に殴る
musashinotan の、
「ハテウヨは屁理屈言って正当化しそう」
も高度である。
「正当化している」ではない。
正当化しそう。
相手はまだ書いていない。
しかし、おそらく書くだろう。
ならば先に殴っておけばいい。
インターネット政治論争を長く続けると、
現実の論敵がいなくても脳内に生成できる
ようになるらしい。
生成AIより先に実用化されていた技術である。
「↓」という古代兵器も現役
そして2026年になっても、古典兵器は生き残っていた。
下矢印である。
somefiles は、
「↓カチャーシーのことを『タコ踊り』と揶揄するような人間が沖縄と他県との分断の一因になっていると思う。」
Dumeiyouclonefart は、
「↓普段は左派の自浄作用のなさを散々批判するのに、右派の不祥事では認知戦だの左派も同じだの玉城デニーは追及しないだの論点そらしばかり。」
そして Gka は非常に簡潔だ。
「↓お前が出ていくのが一番いい。」
2026年。
AI動画が選挙戦を飛び交う時代になっても、
矢印一本で隣のブックマーカーを殴る文化は生き残った。
文化保存の観点では喜ばしい。
治安の観点では知らない。
では、実際に誰がどう戦っていたのか
ここまでは「はてなでどう乱闘が起きるか」を見てきた。
ここからは人物に寄ってみよう。
132記事を眺めていると、同じ攻撃的コメントでも戦い方がかなり違う。
そこで今回確認できた代表的なブックマーカーを、勝手ながら戦闘スタイル別に見ていく。
もちろん、ここで扱うのは今回の沖縄知事選関連記事で確認できたコメント上の振る舞いであって、その人の人格全体を評価するものではない。
正面突破型
m7g6s――とりあえず拳を握って入場
m7g6s は今回かなり高い頻度で、嘲笑や罵倒を交えたコメントを書いている。
「誰一人wwwww取り残さないwwwww」
「訴え取り下げろクズ」
「工作員わかりやす」
さらに、
「安倍の演説妨害した奴を警察が排除した時パヨクはなんて言ってましたっけ?www」
政治的な論点を説明してから刺すというより、
最初から拳を握ってコメント欄へ入ってくる。
過去の言動との矛盾を見つければ、そこへ「www」を添えて殴る。
今回の「乱闘屋」としてはかなり分かりやすい存在だった。
grdgs――逆方向から同じ兵科
grdgs もかなり直線的だ。
「ハテウヨは馬鹿だから」
「もしくはあえてスルーする卑怯者。お前らはいつもそう。」
「程度・限度という概念がない。幼児と同じ。」
「ウヨの豚根性は底がない」
m7g6sとは政治的な攻撃方向が違う。
しかし戦術はかなり近い。
細かい作法より先に敵陣へ突撃する。
右からでも左からでも、インターネットには同じ兵科が存在する。
重砲型
Gka――威力を優先する
Gka は皮肉より直接的な表現を使う。
「沖縄土人は頭おかしい。」
さらに下のコメントへ、
「↓お前が出ていくのが一番いい。」
と返す。
当てこすりではない。
砲撃である。
今回確認した中でもかなり露骨な表現なので、「面白い煽り」というより、政治論争がここまで荒れる例として見る方がいい。
煽り芸型
pj_lim――幼児化してから敬語で締める
pj_lim は戦い方に芸風がある。
「警察wwwww」
「自分がされるのはやぁ~やぁ~って子供かよ」
相手の政治的主張をそのまま論破するのではない。
いったん幼児語へ翻訳する。
さらに、
「民意!民意!www」
と煽った後、
「他県民は黙っとれを引き続きお願い申し上げます。」
と突然丁寧になる。
もちろんお願いしていない。
はてなの当てこすりには、
敬語になるほど殺傷力が上がる
という謎の仕様がある。
指名決闘型
red_kawa5373――相手を探してから撃つ
red_kawa5373 は、不特定多数より特定ユーザーへの当てこすりが目立つ。
cinefuk に、
「日本のリベラルさん、大声で怒鳴り散らす行為を『周りの人が萎縮する』と認めちゃったよ。」
別のユーザーには、
「人権派サマ」
と呼びかける。
「リベラルさん」。
「人権派サマ」。
敬称はある。
敬意はない。
嫌味狙撃型
sirotar――罵倒語を使わずに刺す
sirotar は、露骨な罵倒より皮肉が目立つ。
「人気コメの皆さんは名誉毀損を恐れない蛮勇ですね。」
相手を「無責任」とは書かない。
勇敢ですね、と褒める。
文章表面の温度は低いが、意味はかなり強い。
CffnAddict――同情という凶器
CffnAddict の、
「顔を出して主張する活動と、匿名でデマを撒く行為の区別がつかないのは、少し気の毒に思う。」
も同型である。
「分かっていない」と攻撃するのではない。
心配してあげる。
政治的議論において「かわいそう」は、ときどき罵倒語より強い。
観客席巻き込み型
colonoe――敵軍名簿としてスターを見る
colonoe は、
「id:tekitou-mangaとスターつけてる連中、反論の内容見てないだろ」
と書いている。
本人だけではない。
スターを付けた人まで射程に入る。
さらに、
「爆発物を投げ込むのを擁護してたはてな民が何人かいたよね」
と、個人から「はてな民」へ戦線を拡張することもある。
スター機能を、
「誰が共感したか」
ではなく、
「誰が敵側にいるか」
として読む能力に長けている。
コメント欄焦土化型
zyzy――個人ではなく現場ごと焼く
zyzy は個人攻撃より、コメント欄全体への評が目立つ。
「完全にカルト宗教の思考回路になってるブコメが散見されてて凄いな。」
「ヤバい人たちが可視化されるブコメ欄」
もう誰が悪いのかを一人ずつ確認しない。
現場そのものが汚染されている
という判定である。
theNULLPO――お前ら型
theNULLPO も、
「ブコメ見てるとこれに加担してそうな奴が何人もおるな」
と、目の前のコメント欄を集団として捉える。
個人戦ではなく、
面制圧である。
陣営ラベリング型
T-anal、mutinomuti、ywdc などでは、個人より政治陣営や活動家集団そのものを強い言葉で括るコメントが目立つ。
反対側では「ネトウヨ」「ハテウヨ」などが使われる。
一人ずつ殴るのは効率が悪い。
名前を付ければまとめて殴れる。
政治的ラベルには分類機能だけではなく、
しばしば攻撃範囲指定機能も搭載されている。
予知攻撃型
musashinotan――反論される前に反論する
musashinotan の、
「ハテウヨは屁理屈言って正当化しそう」
は、戦闘技術としてかなり進んでいる。
まだ正当化されていない。
しかし、きっとされる。
ならば、
未来の反論を先に殴ればいい。
ここまで来ると、論敵本人がその場に存在する必要すらない。
脳内生成で代用できる。
寸劇・戯画化型
hanajibuu――敵の論理をコントにする
hanajibuu は、直接的な罵倒より相手側の主張を戯画化することがある。
あるコメントでは、
高市「消費税ゼロは私の悲願」
極左「消費税減税しろ」
……
ブコメ「嘘つけ中国の手先め」
という寸劇を作っている。
長々と、
「あなたの論理にはこの矛盾があります」
と説明する代わりに、
登場人物を並べてコントにしてしまう。
「ほら、この並びおかしいでしょう」。
政治論争を四コマ漫画へ変換する戦術である。
古典矢印型
そして、
somefiles
Dumeiyouclonefart
Gka
などが使った、
「↓」
も忘れてはいけない。
クリックもIDも不要。
矢印一本で隣の席を指す。
ブックマーカー図鑑的に言えば、
はてな村の伝統武器である。
はてな乱闘・戦闘スタイル一覧
はてなの乱闘レベル
今回の例を無理やり進化段階にすると、こうなる。
レベル1:記事について怒る
まだ健全。
レベル2:他のブコメについて怒る
記事より住民が気になり始める。
レベル3:ユーザーIDを直接呼ぶ
対人戦開始。
レベル4:人気コメをまとめて殴る
範囲攻撃を習得。
レベル5:スターを付けた人まで殴る
観客席へ延焼。
レベル6:「はてな民」「ハテウヨ」「はてサ」で陣営全体を焼く
戦略爆撃へ移行。
レベル7:まだ書かれていない反論まで予測して先に殴る
予知能力獲得。
最終的には、
記事を書いた人より、記事を読んだ人同士の方が熱心に戦っている
という状態へ到達する。
フィルターバブルではなく、同じ酒場
ここまで見ると、本編のネットワーク分析ともきれいにつながる。
今回のはてなでは、政治的に立場の違う人もかなり同じ記事を読んでいた。
同じ記事でコメントもしていた。
完全なフィルターバブルなら、相手は見えない。
見えなければ腹も立たない。
しかし、はてなでは違う。
相手が見えすぎる。
玉城デニーの記事を双方が読む。
辺野古の記事も双方が読む。
事故の記事も双方が読む。
SNS選挙運動の記事も双方が読む。
そしてコメント欄を開けば、反対側の人がいる。
さらに、そのコメントにはスターが20個付いている。
良くない。
今回の政治空間を例えるなら、
同じ酒場で、二つの大きな集団が別々のテーブルに座っている
のが近い。
自分たちのテーブルで誰かがうまいことを言う。
スターという拍手が飛ぶ。
隣のテーブルから気に入らない発言が聞こえる。
誰かが立ち上がる。
一言言いに行く。
戻ってくる。
スターが付く。
そして次の記事でも、また同じメンバーがいる。
構造を単純化すると、
相手のコメントを見る
↓
腹が立つ
↓
殴る
↓
味方からスターが付く
↓
次の記事でも相手がいる
となる。
非常によくできた循環である。
本編では、
「同じニュースを読み、同じ場所でしゃべる。でも誰にスターを付けるかでは分かれる」
と書いた。
乱闘まで含めるなら、もう少し付け加えられる。
同じ場所にいる。
だから相手が見える。
見えるから腹が立つ。
腹が立つから殴りに行く。
殴ったあと、自分のテーブルへ戻るとスターが付いている。
はてな村は分断されている。
ただし壁はない。
壁がないので、隣村まで徒歩で殴りに行ける。