ホッテントリはなぜ実際より二極化して見えるのか
187コメントとスターから読む「読み方」の拡散
対象にしたのは、この記事のはてなブックマーク。
- 元記事:「反戦」「反差別」を掲げる左派周辺に広がる陰謀論|女子大生起業家
- はてなブックマーク:ブックマークページ
このエントリは、見た目だけならかなり分かりやすい政治論争に見える。
一方では、
左派・反戦運動にも陰謀論的な言説が広がっている
という記事の問題提起を支持するコメント。
反対側では、
少数の事例を「左派周辺」に拡張するチェリーピッキングではないか
という批判。
人気コメントだけ眺めると、この二つの陣営が激しくぶつかっているように見える。
ところが、187件のコメントを全部分類し、さらにスター、ブックマーカー図鑑の analyzed、既存コミュニティを重ねてみると、少し違う姿が見えてきた。
結論から先に書く。
このブックマークページは、参加者そのものが極端に二分されていたというより、スターが対立軸の明確なコメントを選択的に増幅した結果、実態以上に二極化して見えていた。
そしてもう一つ。
はてなブックマークで拡散されていたのは記事のURLだけではない。「この記事をどう読むべきか」という読み方そのものが、既存コミュニティとスターを通じて拡散されていた。
今回はその過程を見てみたい。
分析対象
今回取得したデータには、動的描画されるブックマークも含まれている。
重複表示を除くと、
- ユニークブックマーカー:195人
- コメントあり:187人
- 無言ブックマーク:8人
このうちコメントした187人を中心に分析した。
ブックマーカー図鑑の最新 analyzed と照合すると、187人中175人、**93.6%**が解析済みだった。
またスターについては、一人が同じコメントへ複数スターを付けているケースがあるため、今回は原則として、
「スターの個数」ではなく「スターを付けたユニークユーザー数」
として扱った。
コメントは内容に応じて、次の5種類に分類している。
| 分類 | 内容 |
|---|---|
| A | 記事肯定・左派周辺の陰謀論という問題提起を強く拾う |
| B | 記事批判・左派への一般化や論証を問題視 |
| C | 左右横断・陰謀論そのものの構造を論じる |
| D | 著者・ブコメ欄・読者・記事の需要などを論じるメタ反応 |
| E | 補足・保留・その他 |
もちろん、一つのコメントに複数の要素が入っていることはある。
今回は「そのコメントがこのページで主に何をしているか」で一つに割り当てた。
結論:実際には二極化していない
まず187コメント全部を分類するとこうなった。
| 分類 | 人数 | 割合 |
|---|---|---|
| A 記事肯定 | 57 | 30.5% |
| B 記事批判 | 29 | 15.5% |
| C 左右横断・構造論 | 47 | 25.1% |
| D メタ論 | 40 | 21.4% |
| E その他 | 14 | 7.5% |
面白いのはここだ。
記事肯定Aと記事批判Bを合わせても、
86人、46.0%
しかいない。
逆に、
- 左右の問題ではないと見る
- 陰謀論の認知構造を考える
- 著者やブコメの反応そのものを見る
- 判断を保留する
といったA/B以外のコメントが、
101人、54.0%
存在する。
つまり、コメントを書いた人々の過半数は、実は単純な
「記事に賛成」vs「記事に反対」
には収まっていない。
それなのに、ブックマークページを見るとかなり激しい左右対立に見える。
なぜか。
スターを入れると分かる。
スターを入れると、景色が突然変わる
187コメントについたスターを、同一人物の連打を1票に縮約すると、ユニークな支持関係は1,348件あった。
分類ごとに集計するとこうなる。
| 分類 | コメント比率 | スター支持数 | スター比率 | 1コメント平均 |
|---|---|---|---|---|
| A 記事肯定 | 30.5% | 648 | 48.1% | 11.37 |
| B 記事批判 | 15.5% | 275 | 20.4% | 9.48 |
| C 左右横断 | 25.1% | 187 | 13.9% | 3.98 |
| D メタ論 | 21.4% | 212 | 15.7% | 5.30 |
| E その他 | 7.5% | 26 | 1.9% | 1.86 |
AとB、つまり明確な対立軸に乗るコメントは、全コメントの46.0%。
ところがスターでは、
68.5%
を占める。
一方で「左右より陰謀論への親和性の問題では」といったCは、コメントでは25.1%いるのに、スターでは13.9%まで縮む。
要するに、
人間の意見分布より、スターで作られる人気コメント欄の方がずっと二極化している。
人気コメントだけを見ると別のページになる
スターを付けたユニークユーザー数で上位を見る。
- id:Shiori115 — A — 107人
- id:err931 — B — 94人
- id:tikuwa_ore — A — 89人
- id:tonocchokun — A — 74人
- id:snare_micchan — A — 63人
- id:afrkn — B — 48人
- id:poko_pen — A — 47人
- id:ffggmm — A — 41人
- id:toria_ezu1 — A — 39人
- id:mahal — C — 21人
驚くほどきれいだ。
トップ9までAかBしかない。
左右横断的に読んだ id:mahal がようやく10位に現れる。
したがって、人気コメントだけを読んだ人には、
「左派にも陰謀論が広がっている」
vs
「これは右派による左派叩きだ」
という記事に見える。
ところが187コメント全部を読むと、その二択以外の人の方が多い。
同じブックマークページなのに、スター順に見るか全件を見るかで、見えている「世論」が違う。
時系列:最初に作られた「読み方」
次に、ブックマーク日時を見る。
注意点として、今回のデータで bookmarkedAt が残っているのは187コメント中40件だけなので、完全な時系列ではない。
あくまで観測できた初期サンプルだ。
JSTに直して主なものを並べる。
| 時刻 | ユーザー | 分類 | 最終的なスター支持者 |
|---|---|---|---|
| 06:42 | id:Shiori115 | A | 107 |
| 06:57 | id:ffggmm | A | 41 |
| 07:31 | id:tikuwa_ore | A | 89 |
| 07:34 | id:poko_pen | A | 47 |
| 07:51 | id:afrkn | B | 48 |
| 07:52 | id:tonocchokun | A | 74 |
| 07:58 | id:snare_micchan | A | 63 |
| 08:04 | id:toria_ezu1 | A | 39 |
| 08:07 | id:lcwin | C | 8 |
| 08:41 | id:err931 | B | 94 |
少なくとも観測可能な範囲では、かなり早い段階でA側の強いコメントが並んでいる。
id:Shiori115 は、自称「反戦」がロシア支持へ接近する矛盾を指摘。
id:tikuwa_ore は、日本の反戦運動の矛先がロシアや中国ではなく日本へ向いているという読み方をする。
id:poko_pen は、反差別や平和を掲げる人物の言動上の矛盾へ話を広げる。
ここで、
「この記事は、左派・反戦派周辺の認知的矛盾についての記事だ」
という初期フレームが形成される。
7時51分、ブコメそのものが観察対象になる
そこへ id:afrkn が入ってくる。
要旨は、
一水会に協賛する保守を拾って「左派に広がる陰謀論」にし、それを読んだブコメもまた「やはり左派は」と属性をつないでいる
というもの。
ここで視点が一段変わる。
それまで、
記事 → 記事への感想
だったものが、
記事 → 先行ブコメ → その先行ブコメへの評価
になる。
このコメントには48人からスターが付き、批判側の最初の大きなアンカーになった。
そして08:41には id:err931 が登場し、著者の過去や「ウヨちゃんが釣れている」という方向から記事を批判する。
こちらには94人。
これで人気コメント欄に、
記事肯定側の巨大アンカー
と、
記事批判側の巨大アンカー
の両方が成立する。
以後、後から入ってきたユーザーは、記事本文だけではなく、すでに形成されたこの二つの読み方も同時に目にすることになる。
「記事を読む」のではなく「すでに読まれた記事を読む」
ここがはてなブックマークの面白いところだと思う。
新聞記事を一人で読む場合、基本的に目に入るのは記事だけだ。
しかし、はてなブックマークでは違う。
ホッテントリに来た時点で、
- 記事タイトル
- 人気コメント
- スター数
- よく見るユーザー名
がセットで提示される。
つまり後から来た人は、
裸の記事を読んでいるわけではない。
すでに誰かに解釈され、評価され、スターで順位付けされた記事を読んでいる。
今回なら、
左派周辺にも陰謀論がある
という読み方と、
また左派叩きのチェリーピッキングだ
という読み方が、記事本文の横に巨大な看板として立っている。
スターは誰が押していたのか
さらに面白いのは、スターがランダムに付いているわけではないことだ。
たとえば id:Hige2323 は、今回46コメントにスターを付けている。
内訳は、
- A:29
- C:7
- D:4
- E:6
- B:0
id:colonoe は19件中、
Aが16件。
id:arvante は17件中、
Aが15件。
反対側では、id:err931 が30件にスターしており、
- B:11
- D:17
- A:1
id:m-kawato は、
- B:11
- D:8
- D:18
- B:6
だった。
つまり、
面白いコメントだから自然にスターが集まった
だけでは説明できない。
それぞれの読み方を継続的に押し上げるユーザー群がいる。
記事肯定派と記事批判派は、実はほとんどスターを交換していない
187人のコメント者同士だけに限定すると、スター関係は310本あった。
そのうち、
同じ分類へのスターが180本、58.1%。
異なる分類へのスターは130本。
分類をノード属性として計算した assortativity は約0.43。
完全に閉じたエコーチェンバーではないが、同じ読み方同士で結び付く傾向はかなりある。
そして特に強烈なのが、
AとBの直接スター
- A → B:1本
- B → A:1本
だけ。
310本中、わずか2本。
同じページで激しく言い争っているように見える二群だが、スターという「同意・評価」のネットワークではほぼ接続されていない。
言ってみれば、
同じリングで戦っている
というより、
別々の観客席から、それぞれ自分側の選手へ拍手している
状態に近い。
では誰が二つの世界をつないでいるのか
AとBの間を直接つなぐスターはほぼない。
その代わり、橋渡しになっているのがCとDだ。
Cは、
陰謀論への親和性は左右とは別軸ではないか
という構造論。
Dは、
この記事はどういう需要で書かれているのか
著者は何者なのか
ブコメ欄はどう反応しているのか
というメタ論だ。
たとえば id:cider_kondo は、タイトルより記事末尾の
「陰謀論への親和性」が党派とは別の軸で働く
という部分を拾っている。
id:lcwin も、各陣営の事情に一定の理解を示しつつ、「真実」に飛びつかないことへ重点を置く。
こうしたユーザーは、AかBのどちらかを全否定するより、一段引いた位置から構造を読む。
ネットワーク上でも、この層がAとBの間に入りやすい。
スターだけでコミュニティを作ってみる
今回のスター関係だけからコミュニティ検出をすると、modularityは約0.54。
かなり明瞭に群れが分かれた。
最大クラスターの一つは、
- B 記事批判:20
- D メタ論:20
- C:6
- A:1
という構成。
id:err931
id:afrkn
id:beejaga
id:nanamino
id:white_rose
などが入る。
対して別の大きなクラスターは、
- A:24
- C:11
- E:3
- D:1
で、
id:Shiori115
id:poko_pen
id:tikuwa_ore
id:toria_ezu1
id:snare_micchan
などがいる。
さらに、
id:colonoe
id:T-anal
id:mutinomuti
id:Capricornus
id:yujimi-daifuku-2222
などが中心になる、さらにA純度の高い小クラスターも存在する。
コメント内容を読まず、誰が誰へスターしたかだけでも、おおよその「読み方」が分離する。
これはなかなか面白い。
ブックマーカー図鑑の既存コミュニティとも重なる
さらに重要なのは、この集団が今回だけ突然できたわけではないことだ。
ブックマーカー図鑑で事前に作っていたコミュニティを見ると、
id:poko_pen
id:toria_ezu1
id:T-anal
id:mutinomuti
id:Gka
などは、政治・ネット・外交を中心とした既存コミュニティで近い位置にいる。
今回も、そのコミュニティではA側の読み方が多い。
また、
id:Shiori115
id:poko_pen
id:augsUK
id:yujimi-daifuku-2222
id:saihateaxis
id:n_vermillion
id:red_kawa5373
などが含まれる別の政治・治安・外交系コミュニティでも、今回の参加者はほぼAだった。
反対側では、
id:tikani_nemuru_M
id:haha64
id:white_rose
id:nanamino
など、普段から人権・社会問題系の記事で近い動きをするユーザーは、今回は全員Bだった。
ここから言えるのは、
コミュニティが政治的結論を機械的に決める
ということではない。
むしろ、
同じ記事を読んだとき、「何を最初に重要だと感じるか」が既存コミュニティと対応している
と考える方が自然だ。
analyzedを重ねると、このページに誰が集まったかが分かる
187コメント者のうち、解析済み175人について主要テーマを見る。
| 主要テーマ | 人数 | 175人中 |
|---|---|---|
| ネット/SNS | 169 | 96.6% |
| メディア/報道 | 169 | 96.6% |
| 政治/政党 | 113 | 64.6% |
| 外交/安全保障 | 52 | 29.7% |
| 生活/社会 | 52 | 29.7% |
| 文化/表現/オタク | 49 | 28.0% |
圧倒的なのが「ネット/SNS」と「メディア/報道」。
ほぼ全員だ。
図鑑全体と比較しても、「政治/政党」「外交/安全保障」が主要テーマに入っている割合は非常に高い。
つまりこのページに集まったのは、単に政治思想の強い人ではない。
普段からネット上の言説、ニュース、他人の発言、メディアの語り方そのものを観察する人々が非常に多い。
だから記事本文だけで終わらない。
すぐに、
この記事を書いた人は何者なのか
他のブックマーカーはどう反応しているのか
このコメントにスターを付けているのは誰なのか
へ視線が移っていく。
「荒れやすい人」が両側から集まっている
ブックマーカー図鑑には、継続的に罵倒・嘲笑・名指し・陣営攻撃などが観測された場合に attack パネルを掲載している。
これは人物の善悪を判定するものではなく、あくまで過去のコメント行動上の特徴だ。
今回、解析済み175人中、
104人、59.4%
にattackパネルがあった。
かなり高い。
分類別に見ると、
| 分類 | attack掲載率 |
|---|---|
| A 記事肯定 | 67.9% |
| B 記事批判 | 78.6% |
| C 左右横断 | 51.2% |
| D メタ論 | 54.1% |
| E その他 | 23.1% |
ここも興味深い。
記事肯定側だけが荒いわけではない。
むしろ今回のサンプルでは記事批判側の方が高い。
つまり、このページが荒れた理由を、
右側の攻撃的な人が集まった
あるいは、
左側の人が過剰反応した
のどちらかだけで説明するのは難しい。
よりデータに近いのは、
普段から政治・ネット論争への参加率が高いユーザーが、両方の方向から大量に集まった
という説明だ。
言ってみれば、平時から殴り合いに参加する選手が両チームから召集された試合だった。
同じ記事を読んでも、見ている場所が違う
個々のブックマーカーを見ると、それがよく分かる。
id:Shiori115 や id:poko_pen は、普段から政治記事そのものだけでなく、はてな内部の特定の論争・陣営の反応を強く観測するタイプだ。
今回も記事を、
「はてな左派・反戦界隈にも見られる矛盾」
へ接続して読む。
一方で id:nanamino は、普段からジェンダーや差別、一般化の非対称性を問題にすることが多い。
今回も、
「右側が以前自分たちに向けられた批判を左側へ返している」
という方向を拾う。
id:cider_kondo は、記事の党派性よりも論理構造や前提を拾うタイプなので、タイトルより末尾の「陰謀論の雑食性」に反応する。
id:lcwin も、誰が正しいかより、排除や物語化がどのように生じるかを見る。
重要なのは、
誰の解釈が正しいか
という話だけではない。
同じ文章を与えても、ブックマーカーごとに最初に拾う箇所がかなり違う。
そしてその差は、過去数千件のブックマークから作った図鑑プロフィールともよく対応する。
はてブで拡散されるのは記事だけではない
今回のケースで一番面白いのはここだと思う。
SNSでURLが拡散される、と聞くと、
AさんがURLを見る
↓
BさんにもURLが届く
というモデルを想像する。
しかし、はてなブックマークでは、
URL
↓
最初のブックマーカーが解釈
↓
スターが特定の解釈を上位表示
↓
後から来た人は記事+その解釈を読む
↓
既存コミュニティに合った別の解釈を加える
↓
またスターが付く
という循環がある。
つまり、拡散しているのはURLだけではない。
「この記事は何についての記事なのか」というフレームも一緒に拡散している。
今回なら、
元記事には、
- 左派周辺にも陰謀論的言説が存在する
- 親露・反ワク・DS論などが奇妙に混在する
- 陰謀論への親和性は党派とは別軸である
など複数の論点がある。
しかし人気コメント空間では、それがまず、
「左派にも陰謀論」
と、
「右派による左派叩き」
という二つの強い物語に圧縮された。
「はてブ世論」は参加者の平均ではない
ここから、少し一般化できる。
私たちは人気コメントを見て、
「はてブではこの意見が多い」
と言ってしまいがちだ。
しかし今回、
A+Bはコメント人口の46.0%しかいない。
それなのにスターの68.5%を取った。
これは、
人気コメント欄は参加者全体の平均ではない
ことをよく示している。
人気コメント欄とは、
スターを積極的に付けるユーザーの選好
と、
既存のスター・コミュニティ
によって圧縮されたビューだ。
したがって、
「はてなではこういう意見が主流だった」
と言うときには、
コメント数の分布
と、
スターによって可視化された分布
を分けた方がいい。
今回、その二つはかなり違った。
まとめ
このブックマークページを187コメント全部から見ると、単純な左右対決ではなかった。
実際には、
- 記事肯定:30.5%
- 記事批判:15.5%
- 左右横断・構造論:25.1%
- メタ論:21.4%
- その他:7.5%
と、読み方はかなり多様だった。
ところがスターを入れると、
記事肯定+記事批判の二極が68.5%を占める。
人気コメント上位9件もすべてその二極だった。
さらにスターグラフを見ると、記事肯定と記事批判の間で直接スターを交換するケースは310本中わずか2本。
一方、それぞれの側には明確なスター増幅者が存在し、そのまとまりはブックマーカー図鑑で事前に観測されていたコミュニティともかなり対応していた。
したがって今回起きていたことを一言でまとめるなら、
参加者が二極化していたというより、スターが二極化を可視化していた。
そして、その結果として後続のブックマーカーには、
すでに二つの読み方へ加工された記事
が提示された。
はてなブックマークで広がるのは、記事だけではない。
その記事をどう読むかという「読み方」もまた、スターとコミュニティを通して拡散する。
今回のエントリは、その過程がかなりきれいに観察できるケースだった。